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山口地方裁判所 昭和34年(モ)241号 決定 1960年2月24日

申請人 匿名組合長生炭鉱

被申請人 白川敏夫

主文

申請人は別紙第三目録記載の物件を被申請人の費用で被申請人以外の者に収去させることができる。

理由

申請代理人は「申請人の委任する山口地方裁判所執行吏は別紙第一目録の土地に在る別紙第二目録の物件以外の工作物を被申請人の費用を以て遅滞なく之を除却し該土地に立入を阻止するに足る囲障を設置することができる。」旨の決定を求め、その理由の要旨は次の通りである。

一、申請人は昭和三十四年八月十五日当裁判所より『被申請人は宇部市西岐波字江頭尻第一四六五の三の内並に埋立地の大部分面積一、七六七坪四合に立入つてはならない。被申立人は右土地に建物その他の工作物を建造してはならない。申請人の委任する執行吏は本命令の趣旨を公示するため適当な方法をとらなければならない』旨の仮処分決定を受け、同日右決定の執行を完了した。ところが、被申請人は右仮処分命令に違反してその後別紙第二目録記載以外の物件を築造している。そこで右第二目録記載以外の物件(以下本件物件と称す)を民事訴訟法第七百五十六条、第七百四十八条、第七百三十三条、第七百三十五条により本件物件を除去し且つ将来のため該土地に立入を阻止するに足る囲障を築造設置することを得る旨の決定を求めるため申請に及ぶ。

当裁判所は本件記録並に申請及び被申請人審尋と検証の結果により次の事実を認めることができる。

一、申請人はその申請の理由で主張するように昭和三十四年八月十五日その主張の内容のごとき仮処分決定(以下第一次仮処分と称す)を受け同日右決定の執行を完了した。ところが右執行当日は既に宇部市西岐波区字江頭尻の土地(以下本件土地と称す。別紙図面)に別紙第二目録記載の物件が建築中でその一部は落成しておりその後、同年八月十七日被申請人より「被申請人(本件申請人以下申請人と称す)は本件土地に立入り申請人(本件被申請人以下被申請人と称す)のなす業務を妨害してはならない。第一項の土地を申請人の委任する執行吏に対し保管を命ずる。右執行吏は第一項の目的を達すまるため公示その他適当の方法を講じなければならない」旨の仮処分決定(以下第二次仮処分決定と称す)を当地方裁判所宇部支部より受けて、その頃右決定の執行を完了した。

二、被申請人は同一土地上に第二次仮処分を得ると同時に第一次仮処分決定に対し異議を申立てたので当裁判所は右仮処分異議事件(当地方裁判所(モ)第二四〇号仮処分異議事件)を審理して来たところ、右被申請人は同三十五年一月十六日異議申立を取下げた(右被申請人の異議申立取下に対し申請人代理人は同意する。そして昭和三十五年二月十九日付申請人代理人より提出の上申書によれば第二次仮処分の取下と執行の解放があつたことを認めることができる。)

而して右異議事件によつて本件の土地は申請外人床波埋立組合所有のものであつたところ、申請人はこれを昭和十七年十一月三十日より賃借し占有を継続して来たものであるが被申請人は同三十四年八月七日右同申請外人(申請外組合)より賃借したと称し採炭事業を経営しはじめて来たものである(しかし乍ら被申請人は同三十五年一月以来右採炭事業の不適な土地であることが判明し事業を中止し前記のように右第二次の仮処分の執行を解放した。)ことは当裁判所に顕著な事実である。そして前顕各証拠によれば、被申請人は第二次仮処分執行完了後第三目録記載の物件を築造したことが明らかであつてその余の一切の物件は何時築造されたか否か又、その個々の物件は何かは明らかでない。

右の事実によれば第一次の仮処分命令(異議申立の取下はあつたが)の執行はそのまゝ継続していることが明らかである。

三、申請人が「被申請人に対する不作為の仮処分命令」を受けこれが執行をしたときは、右仮処分は任意の履行を求めるものであつて、この執行に違反したとき(右執行は命令の送達によつて既に執行完了しているものとの見解)はもはや代執行の命令は求めることはできず、従つて、新に第二に不作為によつて生じた物件の除去命令の仮処分を得て執行を求めなければならない(第一次の仮処分命令には保証金決定も僅少であることが通例であるからこの命令によつては代執行することは予め除去命令たる執行を予想していない。)とする見解がある。

しかし乍ら、当裁判所は不作為の仮処分命令は相手方たる被申請人に送達されて直に執行が完了するものではなく引続き右不作為義務は命令の取消(執行取消)あるまで継続するものと見るを相当とするのであり、これに対する代執行(従つて右執行期間の起算点も被申請人の受忍義務違反より進行するものとする。)は不作為義務違反があつたときに民事訴訟法第七百五十六条第七百四十八条第七百三十三条により仮処分命令に基く代執行ができるものとするが相当とする。

従つて右によれば不作為を命ずる仮処分は不作為の判決に基く債務名義と同一であることからしてその本案たる請求原因の基礎となりうる権利の存否につき既に判断されているのであつて従つてその違反のときも裁判の執行がなされる予想は一般債務名義に基く裁判の執行と何等異るところがない。

そこで、本件事件において考えてみるに申請人の第一次仮処分命令を得ていながら被申請人はこの命令に違反して第三目録記載の物件の築造をしていることは明らかであるから申請人の本件申請は相当であるが、除去する物件の明瞭な部分のみについて申請を相当とし本件申請の趣旨によれば他は前段認定のように特定していないのでその余の部分の申請を認めるを相当としないのであるが本件申請は第一次仮処分の執行命令たる裁判(決定)にすぎないのであつて一個の申請であるからその余の部分につき特に主文において申請却下を要しないものと認め又、本件土地に立入を阻止するに足る囲障を設置することができる旨の申請は本件不作為命令たる仮処分の執行にはこれを相当としないが右にのべた理由により特にこの点についても主文において却下の裁判をしない。

よつて主文の通り決定する。

(裁判官 松本保三)

第一目録

宇部市大字西岐波字江頭第一四六五の三の内

並に埋立地の大部分

山林外 実測面積一七六七坪四合(別紙図面太線部分)

第二目録

第一目録記載の土地上に在る

一、鍛冶場 ((ホ)点)

一、浴場 ((へ)点)

一、便所 ((ト)点)

一、事務所 ((チ)点)

第三目録

第一目録記載土地上に在る

一、充電室及びトランス置場 ((リ)点)

一、コンプレツサー室 ((ヌ)点)

一、捲場 ((ル)点)

一、控場 ((ヲ)点)

一、立杭のやぐら ((ワ)点)

一、立杭の捲場 ((カ)点)

現場見取図<省略>

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